「白内障」と聞くと、高齢者によく見られる病気というイメージが強いかもしれません。ところが、近年では20代~40代といった若い世代での発症例も増えており、「若年性白内障」と呼ばれるケースが珍しくありません。スマホやパソコンなどのデジタル機器の普及や紫外線対策の不足、さらには遺伝要因などが複合的に絡むと、思いがけず早い段階で水晶体が濁ってしまうことがあります。
本記事では、若年性白内障の基礎知識から、初期症状を見分けるための具体的なポイント、そして早期治療の重要性までを詳しく解説します。「若いから大丈夫」と自己判断して放置してしまうと、白内障が進行して視力に大きな影響を及ぼす危険性も。日頃のセルフチェックと定期的な受診を通じて、将来の視力を守りましょう。
若年性白内障の概要
まずは、若年性白内障とはどのようなものであり、なぜ若い年代でも発症するのかを押さえておきましょう。高齢者の加齢性白内障とは異なる要因が関係することも多く、発症のメカニズムが一部異なるケースがあると指摘されています。また、最初は軽いかすみやピント調節の違和感程度で進行していくため、見過ごされやすいのが特徴です。

特徴と原因
- 一般的な加齢性とは異なる発症メカニズム
加齢性白内障は、水晶体の加齢変化によるタンパク質変性が主な原因とされています。一方、若年性の場合は、遺伝的要因や外傷、糖尿病などの基礎疾患、さらには生活習慣やデジタル機器の長時間使用が引き金になることも珍しくありません。
レーシック手術を受けた人やステロイド薬を長期間使用している人などは、リスクが高まるケースもあるため注意が必要です。
- デジタル機器・紫外線・遺伝などの要因
- デジタル機器: 長時間のスマホやパソコン作業で目にかかる負担が蓄積し、ブルーライトの影響やピント調節の過剰使用が水晶体の代謝に影響を及ぼす可能性があります。
- 紫外線: 屋外活動が多い若い人がUV対策を怠ると、白内障の進行を早める一因になることがわかっています。
- 遺伝的要因: 家族に若年性白内障の人がいる場合、同様の症状が若いうちに出てくる可能性も否定できません。
初期段階での症状
- かすみ、軽いぼやけ、まぶしさの増加
若年性白内障の初期には、視界がうっすらかすむ、遠くも近くも少しぼやける、太陽光や照明が以前よりもまぶしく感じるといった症状が現れやすいです。
これらは眼精疲労やドライアイと似た感覚のため、軽視されがち。しかし、放置していると水晶体の濁りが進行し、視力が大幅に低下するリスクがあります。
- 視界のコントラスト低下
白内障が進むと、明暗の差や色の鮮やかさがわかりづらくなることがあります。例えば、夕暮れ時や薄暗い場所で文字が読みづらくなる、色彩がくすんで見えるなどの変化があれば、早めに受診を検討するべきかもしれません。
若者は適応力が高いため、ある程度の視界の悪化に脳が補正をかけ、気づかないうちに症状が進んでしまうケースも珍しくありません。

初期症状の見分け方
では、具体的にどのようにして若年性白内障を初期のうちに見分ければいいのでしょうか。ここでは、日常でできるセルフチェックのポイントと、医療機関で受けられる検査方法を解説します。ちょっとした意識や受診が、白内障の進行を食い止めるうえで大きな役割を果たすのです。
セルフチェックリスト
- 片目ずつ確認してみる
多くの人は両眼で見ているため、左右の目の視力差やかすみ具合に気づきにくいことがあります。洗顔時や就寝前などに片目を隠し、もう片方の視界を比べてみると変化を察知しやすいです。
若年性白内障の場合、片目だけ先に進行することもあるため、左右差が大きくなっていると異変を見分けるヒントになります。
- 遠近のピント合わせに違和感がないか
近くのスマホ画面と、遠くの風景を交互に見たとき、ピントが合いづらいと感じるかどうかをチェックしましょう。ピント調節機能が弱っているのは加齢性の老眼だけが原因とは限らず、水晶体の濁りが関係している可能性も考えられます。
「最近やたら目を細める」「瞬間的にピントが合わなくなる」といった感覚を覚えたら、白内障の初期を疑い、眼科受診を検討する価値があります。
医療機関での検査
- 視力・眼圧・眼底検査での発見
眼科では、基本的な視力検査のほか、眼圧測定や細隙灯顕微鏡検査、眼底検査などを行って水晶体や網膜の状態を詳しくチェックします。
若年性白内障であっても、これらの検査で水晶体の混濁や初期の濁りを早期に捉えることが可能です。
- 問診で生活習慣をヒアリング
若い患者さんには、デジタル機器の使用時間やUV対策、家族歴(遺伝要因)などをヒアリングするケースが多いです。眼科医に自分の生活スタイルを伝えることで、より適切なアドバイスを得られます。
症状を隠さず率直に話し、普段のスマホやPCの使用状況、睡眠時間、食事内容などを共有するのが理想的です。

早期治療の重要性
若年性白内障は、一度進行してしまうと視力に大きな悪影響を及ぼすばかりか、手術が避けられない段階に至ることもあります。しかし、初期のうちに適切な治療を行えば、視力低下を最小限に抑えることが可能です。ここでは、治療法の選択肢や若年層特有のメリットについて解説します。
治療法の選択肢
- 手術的治療・非手術的な処置の概要
手術的治療: 白内障が進んで視力障害が生活に支障をきたすレベルになった場合、濁った水晶体を除去し、人工レンズ(眼内レンズ)を挿入する手術が一般的です。日帰りや短期入院で行う施設が増えています。
非手術的な処置: 初期段階なら、点眼薬による進行抑制や生活習慣の改善だけで症状を管理できることがあります。ただし、進行を根本的に止める効果が確立されていない点滴やサプリなどは慎重に検討する必要があります。
- 病期や症状により異なる
まだ水晶体の濁りが軽度で、日常生活に大きな支障がない段階なら、定期的に視力をチェックしながら点眼や生活習慣改善で経過観察するケースが多いです。
一方で、視力低下が顕著になったり、仕事や学業に差し障るほど困難を感じている場合は、手術的治療を検討する段階に入るでしょう。
若年層特有のメリット
- 回復力が高く、術後の生活復帰が早い
若い世代は組織の再生力や修復力が高いため、手術後の炎症が落ち着くのも比較的早いとされています。結果として、仕事や学業への復帰もスムーズに進むケースが多いです。
日帰り手術であっても、術後数日は安静と点眼が必要ですが、高齢者よりもリスク要因が少ない分、合併症も起こりにくいといったメリットがあります。
- ただし生活習慣の改善も並行して行う必要
若いからといって安心していると、スマホ依存やUV対策の不足など、これまで通りのライフスタイルを続けてしまうリスクが残ります。せっかく手術で視力を回復しても、その後のケアや日常のケアを怠れば再発や他の眼病リスクを高めかねません。
術後の生活習慣改善(栄養バランスや睡眠、デジタル機器の使い方など)を真剣に取り組むことで、長期的に良好な視界を保つことが期待できます。

まとめ
若年性白内障は決して「まれな病気」ではなくなりつつあり、スマホやPCの長時間使用、紫外線対策不足、遺伝要因など、さまざまな要因が若い世代の水晶体を濁らせるケースが増えています。しかし、初期症状の見分け方を知り、早期に医療機関を受診することができれば、白内障の進行を抑える余地は十分にあります。
- 初期症状: 軽いかすみやまぶしさ、ピント合わせの違和感、コントラストの低下などに気付く
- セルフチェック: 片目ずつ視界を比べる、遠近のピント調整を試す
- 医療機関での発見: 視力検査や眼底検査、細隙灯顕微鏡検査などで水晶体の濁りを早期に捉える
- 早期治療の重要性: 手術が必要になる前に生活習慣の改善や点眼などで進行を遅らせる。万一手術が必要でも、若年層の回復力は高く術後復帰が早い
最後に大切なのは、視界に異変を感じたらすぐ受診するという意識を持つことです。若い世代こそ、仕事や勉強に忙しく目の不調を放置しがちですが、白内障は放置すると確実に進行し、視力や生活の質に大きく影響を及ぼします。日々のセルフチェックと定期検診を習慣化し、今のうちから目を大切にするライフスタイルを築いていきましょう。
参考
日本眼科学会 白内障
日本眼科医会 デジタル機器により生じるる視機能の弊害