網膜剥離は、目の奥にある「網膜」がはがれてしまう状態です。進行が早いと視力に深刻なダメージを与え、場合によっては失明につながるリスクもあります。しかし、飛蚊症(ひぶんしょう)や光視症(こうししょう)など、比較的早い段階で気づけるサインが存在します。本記事では、網膜剥離の起こる仕組みや原因、初期症状、そして早期発見に役立つセルフチェック方法や受診の目安をわかりやすく解説します。
網膜剥離とは?
病態と進行メカニズム
網膜剥離とは、目の内部で「網膜」という薄い膜状の組織が、眼球壁(脈絡膜)から部分的または全体的にはがれる状態を指します。網膜はカメラのフィルムに相当する重要な部分で、光の刺激を受け取って脳へ送る役割があります。
通常、網膜は硝子体(しょうしたい)と呼ばれるゼリー状の物質に面しており、網膜と脈絡膜の間には液体が入り込まないようにピタッと密着しています。しかし、加齢や外傷などをきっかけに網膜に穴(裂孔)ができると、その裂け目から房水(ぼうすい)が入り込み、網膜を剥がしてしまうことがあります。はがれた網膜部分は血液からの栄養供給が十分に受けられなくなり、放置すると視力が急速に低下してしまうのが網膜剥離の怖いところです。
進行の速さは個人差がありますが、裂孔の大きさや位置によっては数日〜数週間で網膜が大きく剥がれ、視野に大きな欠損を生じることもあります。はじめは自覚症状が少ない場合でも、ある日突然視界に大きな影が広がるように感じることがあるため注意が必要です。
初期症状のサイン(飛蚊症・光視症など)
内容概要:飛蚊症や光視症が増えた場合に疑うべきポイント。視野欠損が起きるまでの流れ
キーワード:飛蚊症, 光視症, 視野欠損, 早期発見
網膜剥離の初期症状として多くの方が感じるのが「飛蚊症」と「光視症」です。
- 飛蚊症:視界の中を小さな黒い点や虫のような影が浮遊して見える症状です。もともと生理的飛蚊症がある方もいますが、網膜剥離が始まると飛蚊症が急に増えたり、形状が変化する場合があります。
- 光視症:暗い場所や目を閉じているときでも、突然光がピカッと走るように感じる症状です。網膜が引っ張られる刺激で、脳が「光」として認識してしまうことが原因とされています。
初期の段階では視野に大きな欠損は見られない場合もありますが、飛蚊症や光視症が急に増えたと感じたら、網膜に何らかのトラブル(裂孔や剥離の前兆)が起きている可能性が高いため、早めに眼科を受診することが大切です。放置すると、網膜がさらに大きく剥がれてしまい、失明に至るリスクも否定できません。

網膜剥離の原因とリスク因子
網膜剥離は、特定の人だけがなる病気ではありません。ただし、いくつかの要因やリスク因子が明確に存在しており、自分に当てはまるものがあれば特に注意を払う必要があります。ここでは、加齢・強度近視・外傷など、網膜剥離の主な原因とリスクをご紹介します。
加齢・強度近視・外傷
網膜剥離にはいくつかの原因・リスク因子があります。代表的なものは以下の通りです。
- 加齢(後部硝子体剥離):
年齢とともに硝子体が縮んだり、液化して眼球内で動きやすくなります。その過程で網膜に強い牽引力が働き、裂孔ができやすくなることがあります。 - 強度近視(-6D以上など):
近視が強い人は眼球が前後に長く、網膜周辺部が薄く伸びている場合があります。小さな裂け目が生じると剥離に至りやすい特徴があります。 - 外傷・スポーツ:
ボクシングやラグビーなど、頭部や目に衝撃が加わる激しいスポーツや事故で網膜に穴が開くリスクが高まります。 - 他の眼疾患との関連:
糖尿病網膜症や網膜変性がある方は、網膜剥離を併発しやすい場合があります。
網膜剥離は1000人に1人程度といわれる発症頻度ですが、強度近視の方や加齢による硝子体剥離を起こしている方ではリスクが高まる傾向があります。自分がリスク群に当てはまると感じた場合、定期的な眼科検診を受けることが有効です。
放置するとどうなるか?失明リスク
網膜剥離を放置すると、はがれた部分の網膜が栄養を受け取れず、光を感知する細胞がどんどん死んでしまいます。その結果、視力が急激に低下するだけでなく、最悪のケースでは失明に至ります。
特に、剥離が黄斑部(視力の中心)に及ぶと、たとえ後日手術で網膜を元に戻しても、完全には視力が回復しない場合があります。視野に大きな影が残ったり、ぼやけ・歪みが続くなど深刻な後遺症が出ることもあります。
そのため、網膜剥離は「症状が軽いうちに見つけて治療する」ことが極めて重要です。初期症状を見逃さず、少しでも異変を感じたら放置せずに眼科を受診しましょう。

自分でできるセルフチェックと受診のタイミング
網膜剥離は、症状に気づかず放置していると手遅れになりやすい病気です。そこで活躍するのが、普段からできるセルフチェックや、飛蚊症・光視症を自覚したときの対処です。この章では、自己点検のポイントと、いつ受診すべきかについて詳しく解説します。
セルフチェックリスト
セルフチェックで注目すべきポイント
- 飛蚊症が急に増えたか?
以前から飛蚊症があった人でも、急激に数が増えたり、形状が大きく変わったりしていないか。 - 光視症を強く感じるか?
部屋を暗くしたときや目を閉じているときに、ピカピカッという閃光が走るように感じることはないか。 - 視野の端が暗い、カーテンがかかったように感じる
視野が狭くなったり、端が影のように暗くなる現象(カーテン視)がないか。 - 視力が落ち、文字や形がはっきり見えない
メガネやコンタクトを替えてもピントが合わず、視力検査でも以前より大きく数値が下がっていないか。 - 片目だけ異常を感じていないか
両目で見ると気づきにくいことも多いので、片目ずつ視界を確認するのも有効。
これらの項目のうち、複数が当てはまったり、症状が急に進行した場合は緊急度が高いといえます。一時的に治まることも稀にはありますが、実際には裂孔が広がって剥離が拡大している可能性を無視できません。
緊急受診の目安と治療法の選択
緊急受診の目安
飛蚊症や光視症が突然大量に出現:
いつもの倍以上に感じる、数時間~1日で急に悪化したなど。
視野欠損(カーテン視)の発生:
端から影が広がっていく感覚、中心まで迫ってくる感じ。
片眼が極端に見えにくくなった:
もう一方の目で補正できるため、発見が遅れがちだが要注意。
このような症状が少しでもあれば、すぐに眼科専門医がいる病院へ行きましょう。時間外であっても総合病院の救急窓口に連絡すれば、眼科医が当直している病院を紹介してもらえることがあります。
治療法の選択は、網膜がまだ裂孔だけで剥離していない段階ならレーザー治療で裂孔周辺を固めることで進行を防ぐ場合があります。すでに網膜が大きく剥がれている場合は、強膜内陥術や硝子体手術といった外科的処置が必要です。どちらにしても「早く見つかれば見つかるほど、軽い処置で済む」可能性が高まるため、一刻を争う病気だと意識しましょう。

結論・まとめ
網膜剥離は、一度進行してしまうと視力に大きな悪影響を及ぼし、後遺症が残ったり、最悪の場合には失明へと至るおそれもある非常に危険な疾患です。しかし、初期症状として代表的な飛蚊症・光視症は比較的早めに気づきやすいサインでもあります。これらの症状が急に増えたり、視野の端が暗くなる「カーテン視」を感じたりしたら、少しでも躊躇せずに眼科を受診してください。
リスク要因として、加齢・強度近視・外傷などが挙げられますが、どんな人でも網膜に裂孔が生じる可能性は否定できません。定期検診を受けていれば、小さな異常の段階で発見し、レーザー治療などの小規模な処置で済む場合もあります。視力は日常生活の質(QOL)に直結する大切な感覚です。早期発見と早期受診で、将来の視力を守っていきましょう。
参考:日本眼科学会 網膜剥離
日本眼科医会 飛蚊症と網膜剥離 なぜ?どうするの