老眼は加齢により、近くをはっきり見るためのピント調節力が低下する現象です。スマートフォンの文字が小さく見えたり、新聞や読書の際、手元を離さないと焦点が合わなくなったりと、多くの方が生活の質(QOL)の低下を感じます。老眼鏡は手軽な対策ですが、何度も掛け外しする手間や不便さを解消したい方は少なくありません。
そこで注目されるのが、レーシックや多焦点眼内レンズを用いた外科的治療法です。「老眼も手術で何とかなるのか?」と疑問を抱く方も多いことでしょう。本記事では、老眼対応レーシックの仕組みや特徴、さらに多焦点眼内レンズによる治療法との比較を踏まえ、あなたに合った選択肢を見つけるための情報をわかりやすく解説します。新たな選択肢を知り、自分に合った解決策を見つけるきっかけになるでしょう。
老眼とは?加齢によるピント調節力低下
老眼は、水晶体が加齢によって硬くなり、焦点を近くに合わせる能力(調節力)が弱まることで生じます。若い頃は弾力性が高く、遠方から近方までスムーズにピントを合わせることができますが、40代後半以降になると手元がぼやけ始め、文字を読むときに距離を取らないと見えにくくなります。
老眼の主な対策は老眼鏡です。しかし、毎回掛け外しする煩わしさや、複数の距離に合わせて眼鏡を使い分けるストレスから、より根本的な解決策を求める声が増えています。

老眼対応レーシックとは何か
レーシックは、角膜をエキシマレーザーで精密に削り、屈折力を調整することで視力を改善する手術です。元来は近視・遠視・乱視の矯正が主目的でしたが、近年では老眼を考慮した特殊なレーシックも登場しています。これは、片眼を遠くにピント合わせ、もう片眼を近くに合わせる「モノビジョン」や、角膜に多焦点性をもたせる「PresbyLASIK(プレシバイレーシック)」、角膜内に小さなリングを挿入して焦点深度を拡げる「KAMRAインレー」など、複数のアプローチがあります。
老眼を考慮したレーシックの手法
- モノビジョンレーシック:一方の目を遠方、もう一方の目を近方視力用に矯正。脳が2つの映像を統合し、遠近両方の見え方をカバーします。
- PresbyLASIK:角膜形状を特殊に加工し、多焦点的な屈折特性を作り出します。これにより、遠方から中間距離、近方まである程度見やすくなります。
- KAMRAインレー:角膜内に微小なリング(インレー)を挿入し、焦点深度を深くすることで近くを見やすくします。
老眼レーシックのメリット・デメリット
メリット:
- 老眼鏡への依存が減り、両手が自由になる。
- 日帰りが可能な手術が多く、回復も比較的早い。
- 近くを見る際のわずらわしさが軽減され、QOLが向上する可能性がある。
デメリット:
- 脳が新たな視覚バランスに慣れるまで時間が必要な場合がある。
- すべての患者に100%適応するわけではない(角膜の厚みや形状、度数などの制約)。
- 加齢によるさらなる変化で再度矯正が必要になる可能性がある。

多焦点眼内レンズによる治療法
レーシックが角膜の屈折力を調整するのに対し、多焦点眼内レンズは水晶体を人工レンズに置き換えます。白内障手術で行われる水晶体再建術と同様の手技で、白内障の有無にかかわらず視力の大幅な改善が期待できます。
多焦点眼内レンズは、遠方・中間・近方と複数の距離にピントを合わせる設計があり、老眼鏡なしで読書から運転までこなせる可能性があります。特に、白内障が進行している方は、水晶体交換によって白内障治療と老眼対策を同時に実現できる点が大きな魅力です。
レーシックとの比較表
比較項目 | 老眼対応レーシック | 多焦点眼内レンズ |
対処部位 | 角膜(外眼) | 水晶体(内眼) |
視力特性 | 遠近差や多焦点的加工 | 遠近両用・多焦点設計 |
永続性 | 加齢変化の影響あり | レンズ自体は半永久 |
適応条件 | 角膜形状・度数など制限 | 白内障合併例で有利 |
外科的侵襲 | 少なめ(表層の処置) | 眼内手術が必要 |
ポイント:
- 白内障があるなら多焦点眼内レンズが合理的
- 角膜条件が良好で、加齢変化が軽度な場合、老眼レーシックも選択肢
- コンタクトや眼鏡依存度を下げたいが外科的侵襲を抑えたい場合、レーシックを検討

他の老眼治療オプション
レーシックや多焦点眼内レンズ以外にも、さまざまなアプローチが研究・実用化されています。
- フェイキックIOL(有水晶体眼内レンズ挿入):水晶体を残したままレンズを挿入する手術。
- PRKやLASEK:角膜表面を扱う他の屈折矯正手術で、条件によって老眼を考慮した矯正が可能。
- リーディングアイ手術:近方視力特化の特殊な処置。
- 点眼治療の研究:調節力を補う点眼薬開発が進行中。
いずれの方法も一長一短があり、眼の状態やライフスタイルに合わせた選択が重要です。
受診の目安と眼科相談のポイント
老眼の悩みが日常生活に支障をきたしている場合は、眼科での相談を検討しましょう。相談前に以下の点を整理しておくと、医師とのコミュニケーションがスムーズになります。
受診前に確認したい項目
- 老眼鏡を頻繁に使用しているか
- 近方視力低下により仕事や家事、趣味に支障を感じるか
- 白内障の疑い(かすみ、まぶしさ)や他の眼病を指摘されたことはあるか
- これまでコンタクトやレーシックを検討したことがあるか
相談時に聞くべきこと
- 自分の目の状態(角膜厚、乱視の有無、白内障の進行度)
- 各手術の期待できる効果、リスク、回復期間
- 費用や保険適用の可否
- 術後のフォローアップ体制

治療後の生活と満足度
適切な治療を受ければ、老眼鏡に頼らず、読書やスマートフォン操作、パソコン作業、趣味やスポーツがより快適に行えるようになります。多くの患者が「生活の質が大幅に向上した」と感じており、適切な術後ケアと定期的な検診で、長期的な視機能の安定も期待できます。
まとめ・結論
老眼は避けられない加齢現象ですが、現代医療は多彩な外科的治療オプションを提供しています。老眼対応レーシックや多焦点眼内レンズは、その代表的な選択肢です。どちらが適しているかは、患者個々の目の状態やライフスタイル、将来的な視力変化を考慮して決定されます。
本記事で得た知識を踏まえ、興味を持った治療法について眼科医に相談してみてください。あなたの目に合った方法を選ぶことで、老眼による不便さから解放され、より充実した日常生活を取り戻すことができるかもしれません。
参考文献
日本眼科学会「屈折矯正手術ガイドライン」
JSCRS(日本白内障屈折矯正手術学会)