「網膜剥離(もうまくはくり)」と聞くと、「いきなり視界が暗くなる」「放置すると失明する怖い病気」といった印象があるかもしれません。しかし、実際にどんな症状で、どんな治療を行うのか、術後はどう過ごせばいいのかなど、疑問は尽きないのではないでしょうか。

本記事では、よくある疑問をQ&A形式でまとめました。基礎的なことから手術・費用・術後生活まで、専門医の見解をもとにわかりやすく解説しているので、短い時間で大事なポイントを把握できます。網膜剥離について気になることがある方は、ぜひ最後までお読みください。

基礎編—網膜剥離とは?

網膜剥離は、目の奥にある「網膜」が何らかの原因で内壁から剥がれてしまう病気です。飛蚊症(ひぶんしょう)や光視症(こうししょう)が急に増えたり、視野の端が暗くなる“カーテン視”が代表的な症状です。放置すると視力を失うリスクが非常に高いため、早期発見と治療がカギとなります。ここではまず、網膜剥離の「痛み」と「失明リスク」に関する、よくある疑問に答えます。

Q1:痛みはあるの?

A1:痛みを感じるケースは少ないが、視野の異常が主症状です。

痛みがない理由
網膜剥離の初期〜進行期において、目の中に痛覚をはっきり感じる神経がないため、多くの場合痛みはほとんどありません。そのため、症状に気づきにくいのが特徴です。

主な自覚症状
飛蚊症
黒い点や虫のような影が視界に浮かんで見える。特に数や大きさが突然増えたら要注意。
光視症
暗い場所や目を閉じている時でも、閃光が走るように感じる。網膜が引っ張られている可能性が高い。
カーテン視
視野の端が“暗幕をかけたように”黒くなり、徐々に中心へ迫ってくる。

痛くない=安心ではない
網膜剥離の怖いところは、“痛みがないのに視野がどんどん失われる”点です。少しでも視野に異常を感じたら、眼科を受診することを優先してください。

網膜剥離のQ&A集:よくある疑問を専門医がわかりやすく回答

Q2:放置すると失明する?

A2:放置すれば失明リスクが高まり、早期発見が視力を守ります。

視細胞が栄養を失う
網膜が剥がれると、網膜が脈絡膜からの血流供給を受けられなくなり、光を受容する細胞が死んでしまいます。特に黄斑部(視力の中心)まで剥離が及ぶと、回復が難しくなり、大幅な視力低下が避けられません。

進行スピードが速い
個人差がありますが、数日〜数週間で黄斑部まで剥がれるケースもあります。痛みがないため放置しがちですが、飛蚊症の急増や視野の暗さを感じたら時間との勝負と考え、すぐに眼科へ行くことが失明を防ぐ最善手段です。

“ほんの数日の遅れ”は危険
網膜裂孔の段階で発見すればレーザー治療だけで済む場合もありますが、放置により剥離が拡大してしまうと、硝子体手術や強膜内陥術など大掛かりな手術が必要となり、それでも完全回復が難しい例もあります。

網膜剥離のQ&A集:よくある疑問を専門医がわかりやすく回答

治療編—手術・費用・術後生活

網膜剥離の治療には軽度ならレーザー照射、中〜重度なら外科的手術(硝子体手術・強膜内陥術など)が行われます。「どれくらい時間がかかる?」「入院は必要?」といった疑問や、術後の生活で気をつけることは多くの方が気にするポイントです。ここでは、治療に関する代表的なQ&Aを取り上げます。

Q3:手術時間はどれくらい?入院は?

A3:ケースにより大きく異なります。レーザーなら日帰り、硝子体手術なら数日入院もあります。

レーザー光凝固
所要時間
:数十分程度の外来治療。点眼麻酔をしたうえでレーザーを照射し、裂孔周囲を焼き固めて剥離進行を防ぎます。
入院の必要性
基本的に日帰りが多く、術後は数日安静を保てば普通の生活に戻れれます。
費用感
保険適用で数千円〜1万円程度(自己負担率にもよる)。

強膜内陥術
所要時間

1〜2時間程度が目安。局所麻酔か全身麻酔を選ぶケースもあります。
入院
数日間の入院が一般的。術後も安静にする期間があり、場合によってうつ伏せ姿勢などの指示もあります。
費用
保険適用で数万円〜十数万円(3割負担の場合)。

硝子体手術
所要時間

1〜2時間ほどだが、ガスやシリコンオイルを注入した場合は術後の管理が必要です。
入院
数日〜1週間程度の入院を要することが多い。姿勢制限などの術後指示が厳格に行われる場合もあります。
費用
手術法・病院によるが、強膜内陥術と同程度かそれ以上の自己負担となる可能性があります。

Q4:術後に注意すべきことは?

A4:ガス注入時のうつ伏せ制限、再発防止に向けた定期検診が重要

姿勢の制限
特に硝子体手術でガスを注入した場合、うつ伏せ顔を下に向ける姿勢を何日間も続ける必要がある場合があります。うつ伏せのクッションなどを使って体への負担を軽減しつつ、指示を守らないと再剥離リスクが上がるので注意しましょう。

網膜剥離のQ&A集:よくある疑問を専門医がわかりやすく回答

再発予防のための定期検診
術後数週間〜数ヶ月かけて網膜が安定するまで、医師のスケジュールに沿って通院し、再剥離新たな裂孔がないかを確認します。
飛蚊症や視野異常が再発したら、すぐに受診を優先。時間を置くと手遅れになる可能性が高いです。

生活の見直し
激しいスポーツや大きな衝撃を受ける活動は、再剥離リスクを高める。仕事で重い物を持つ、長時間のPC作業をする人は、医師の許可を得てから段階的に復帰しましょう。
喫煙や過度の飲酒は血流を悪化させ、回復を遅らせる恐れがあるといわれているので、できるだけ控えることが望ましいです。

網膜剥離のQ&A集:よくある疑問を専門医がわかりやすく回答

結論・まとめ

網膜剥離は「痛みがほとんどない」「放置すると失明リスクが高い」「手術法により休業期間や安静度合いが変わる」「術後の再発予防が大切」といった点がポイントとして挙げられます。このQ&Aで取り上げたように、視野に異常を感じたら早期に受診し、小さな裂孔の段階ならレーザー治療ですむ場合もあれば、進行してしまえば硝子体手術や強膜内陥術という大きな手術が必要になる場合もあるでしょう。

Q1(痛みはある?)
基本的に痛みを伴うことは少なく、飛蚊症や視野欠損が主症状です。

Q2(放置すると失明する?)
剥がれた網膜が栄養を受けられず、視細胞が死んでしまうため、失明のリスクが大いにあります。

Q3(手術時間・入院は?)
軽度ならレーザー照射で日帰りも可能だが、硝子体手術の場合は数日〜1週間程度の入院が一般的です。

Q4(術後の注意点)は?
姿勢制限や定期検診が欠かせず、再発を防ぐためにも生活習慣の見直しが必要です。

症状や疑問点が解決しなかった方も、まずは眼科で相談してください。網膜剥離は早期発見・早期治療が勝負の病気です。違和感を放置せず、悩みを素早く解消し、視力を守って快適な生活を続けましょう。

参考:日本眼科学会 網膜剥離
   日本網膜硝子体学会 網膜剥離(裂孔原性網膜剥離)