網膜剥離の手術を受けた後、「どのくらいで視力が戻るのだろう?」「また剥離してしまう可能性はないのか?」と不安になる方は多いでしょう。実際、網膜剥離は視力の要である網膜がはがれる深刻な疾患であり、手術後も再発のリスクや長期的な視力管理が欠かせません。
本記事では、術後の視力回復の流れや再発率、さらには長期的に視力を守るための注意点を詳しく解説していきます。術後の経過を知り、適切なケアを続けることで、大切な視力をより良い状態に保ちましょう。
網膜剥離手術後の視力回復と経過の流れ
網膜剥離の手術には、「強膜内陥術」「硝子体手術」「ガスやシリコンオイルの注入」など、患者の症状や剥離の位置・範囲によってさまざまな方法が選択されます。どんな手術法でも、術後すぐに視力が完全に元通りになるわけではなく、1週間、1ヶ月、3ヶ月といった区切りごとに少しずつ変化していくのが一般的です。
術後の視力はすぐには戻らない
「手術したらすぐにバッチリ見えるようになるの?」と期待してしまうかもしれませんが、網膜が元の位置に戻っても、視細胞がダメージを受けていた場合や黄斑部が剥離していた場合など、回復には時間がかかります。個人差が大きいので、一概に「○日後には視力が元どおり」とは言えないのが実情です。
術後1週間・1ヶ月・3ヶ月での変化
1.術後1週間
ガス注入の場合
手術で眼球内にガスを入れた場合、視野が一部ガスで覆われているため、物がゆがんで見えたり、視界の下半分に“水面”のようなラインが見えたりします。
姿勢制限や安静
うつ伏せ姿勢を指示されるケースもあり、この指示を守らないと再剥離や復位不全を引き起こすリスクが高まります。
視力はまだ不安定
この段階で「視力が思ったより悪い」と感じても、焦らず指示に従うのが大切です。
2.術後1ヶ月
ガスが徐々に吸収される
ガス注入をした場合、数週間から1ヶ月ほどかけてガスが自然吸収され、少しずつ視界がクリアになる場合が多いです。
硝子体手術でシリコンオイル使用時
オイルを抜去する再手術が必要なケースもあり、そのタイミングで視力がさらに変化します。
視力回復の兆し
個人差はありますが、黄斑部のダメージが軽度なら、ここで視力がかなり戻ってくる方も。ただし、十分な回復にはさらに時間が必要です。
3.術後3ヶ月
多くの人が回復の落ち着きどころ
視力の回復カーブは3ヶ月前後である程度安定し始めることが多いです。
残る歪みや視野欠損
重度の剥離や黄斑部剥離があった場合、微妙な歪みや視力低下が残る可能性があります。
定期検診の継続
再発リスクをチェックし、経過を確認するために定期検診を怠らないことが重要です。
視力が戻るまでの目安
- 個人差や病状差が大きい
黄斑部への影響
黄斑部が剥離していたかどうかで、回復の度合いが大きく変わります。
年齢や全身状態
高齢者や糖尿病などがある場合、回復ペースが遅れることもあるでしょう。
近視の度合い
強度近視がある人は網膜が脆弱であったり、他の合併症が残ったりしやすいです。
- 注意点
焦らずリハビリする
急な運動や長時間のPC作業は避け、眼に負担をかけないようにする期間を守りましょう。
痛みや異常を感じたらすぐ受診
術後に激しい痛みや視力の急な低下があれば、再剥離や感染症の可能性を疑い、即受診が望ましいです。
適切な姿勢制限や安静
眼科医から示された姿勢や生活上の制限を守ることが、回復と再発防止につながります。

術後生活のコツ—姿勢・運動・仕事復帰の注意
網膜剥離手術後は、「いつから普通に生活できるのか?」と気になる方が多いでしょう。実は術後の生活にはさまざまな制限があり、特にガスやシリコンオイルを注入した場合は姿勢が視力回復に大きく影響します。
ここでは、術後1週間〜数週間にかけての姿勢管理や安静期間の意味、運動や仕事復帰の目安についてまとめました。いずれも再剥離を防ぎ、視力回復を促すために欠かせない要素です。
姿勢・安静期間のポイント
- ガス注入時のうつ伏せ指示
網膜を内側から押し付けるため、一定期間うつ伏せ姿勢を保つよう指示される場合があります。ガスが上部に溜まることで、黄斑部や裂孔部分が効果的に押し付けられ、再剥離リスクが下がります。姿勢制限を守らないと再剥離や網膜が十分に密着しないなど合併症が起きる可能性があります。
- 安静と頭の動かし方
急激な頭の動きや、寝返りの頻度・タイミングにも指示がある場合があり、医師の指示に従うことが再剥離予防に直結します。仕事や家事は早めに再開したい気持ちがあっても、最初の1〜2週間は安静を基本と考えてください。
- 痛みや違和感
術後に痛みや違和感が強いときは無理せず医師に相談。鎮痛薬や点眼薬を処方されることも多いが、自己判断で放置しないことが重要です。
運動・仕事復帰の目安
- 軽い運動はいつから?
ウォーキングや軽い家事程度なら、術後数日~1週間ほど安静にした後、少しずつ再開を検討しましょう。本格的なスポーツや激しい運動は、術後1ヶ月以上経過して医師に確認したうえで許可をもらうのが安全です。 - デスクワーク・PC作業
1〜2週間の安静後も、長時間の画面凝視は眼精疲労を起こしやすく、視力回復を妨げる恐れあり。はじめは1日数時間から慣らし、こまめに休憩を挟むなど対策を取る。 - 車の運転など視力を要する作業
網膜剥離術後は視野が一時的に不安定になることが多いため、運転再開には医師の許可が必須。視力や視野が十分に回復していない段階での運転は非常に危険なため、自己判断で再開しない。
再発リスクと防止策
網膜剥離は、手術が成功して一旦視力が回復したとしても、再剥離というリスクがゼロになるわけではありません。ここでは、なぜ再発が起こるのか、その確率はどの程度なのか、そして再発を防ぐためにどうすればいいのかについて説明します。
「せっかく手術したのに、また剥離したらどうしよう……」という不安を抱えている方は少なくありません。確かに再発が起こるケースもありますが、定期検診や生活習慣の見直しなど、再発リスクを下げる方法があります。
定期検診と生活習慣の見直し
- 再発率の目安
一般的に、網膜剥離の手術後の再発率は数%~10%程度とされています(治療方法や剥離範囲、個人差による)。斑部近くの剥離や重症例だった場合、再発率がやや高まるといわれています。
- 定期検診の重要性
術後は医師の指示に従い、最初は1〜2週間おき、次いで1ヶ月後、3ヶ月後、半年後など頻度を決めて通院する。小さな裂孔や再剥離の初期サインを見逃さず、早期に対処しましょう。受診頻度は初期段階は短い間隔で、その後問題なければ間隔を伸ばすのが一般的です。
- 生活習慣の見直し(衝撃回避など)
激しい運動や衝撃が加わるスポーツは慎重に再開し、保護メガネや防具を使用するなど工夫をします。こまめな休憩や、眼に負担をかけすぎない作業時間の調整が視力維持の鍵となる。ストレスが体調全般に影響を及ぼすように、眼の回復にも悪影響を与えかねないため、無理のない範囲で仕事・日常生活のペースを調整する。
再発時の対処
1.再発となるケース
網膜のほかの場所に新たな裂孔ができる場合既存の治療箇所がうまく密着しきれず剥離が再度進行します。
再手術が必要となるが、初回手術よりも難易度が高まることが多いです。
2.症状の再チェックリスト
・飛蚊症・光視症が再び増える、視界の端に暗い幕を感じる(カーテン視)
・視力が急落、文字や物体が判別しにくくなる。
・痛みや異常な圧迫感、赤みがひどいなどの炎症サインがあれば、感染症や他の合併症の可能性もある。
3.早期発見が鍵
一度手術で回復していても、再発に気づいてまた早期に治療できれば、視力へのダメージを最小限にできます。「まさか再発しないだろう」と思わずに、定期的に自己チェックをすることが大切です。

長期的な視力管理のポイント
一度網膜剥離を経験した方や、高リスク群(強度近視・加齢・外傷歴など)に該当する方は、長期的に目の状態を監視し、再発の予兆や別の眼疾患に備える必要があります。ここでは術後も含めて、持続的に視力を保つためのポイントを紹介します。
「手術が終われば万事OK」ではなく、むしろ手術後こそがスタート。ロービジョンリハや補助具の活用、定期的な自己チェックなど、長い目で視力と付き合う姿勢が大切です。
リハビリ・視力補助具の活用
ロービジョンケア
術後に視力が十分回復せず、物が見えにくい状態(ロービジョン)になる場合があります。
専門外来で拡大読書器やルーペなど視機能補助具を処方してもらい、日常生活をサポートする手段が得られます。
生活の質(QOL)向上
見え方の変化が大きいと心理的ストレスも大きいもの。必要に応じてカウンセリングを受けたり、家族や職場に状況を理解してもらうことも重要です。補助具をうまく活用しながら、読書や趣味を楽しむなど、自分らしい生活スタイルを取り戻すための工夫をする。
定期的なモニタリングで早期発見を繰り返す
自己チェックの習慣化
飛蚊症や光視症などの初期症状に再び敏感になりましょう。片目ずつ視野を確認し、暗い部屋で光視症が増えていないか月1回程度チェックします。
定期眼科検診
術後は回復が進むにつれ受診頻度は下がるかもしれませんが、完全に検診をやめてしまうのはリスク。半年〜1年ごとには専門医に診てもらい、網膜の状態を確認することが推奨されます。
併せて、白内障や緑内障など他の疾患の早期発見にも役立ちます。
生活習慣の維持
栄養バランス、睡眠時間、ストレス管理など、全身的な健康が眼の血流と密接に関係しています。外傷に注意しながら適度な運動を続け、血行促進を図ることも眼の健康にはプラスに働きます。

まとめ
網膜剥離の手術後は、1週間、1ヶ月、3ヶ月といったタイミングで視力がどのように変化していくのかを把握し、定期的な検診や生活習慣の見直しを続けることで、再発リスクを下げて長期的な視力を保てます。一度剥離を経験した方はもちろん、強度近視や加齢などでリスクが高い方も、「再発防止」「予防」に向けた視力管理を意識することが肝心です。
術後経過
ガス注入や硝子体手術後、すぐに視力が戻るわけではなく、個人差があります。数ヶ月かけて徐々に回復するケースが多い。
再発リスク
数%〜10%ほどといわれ、定期的な検診で小さな再剥離を早期発見することが重要。衝撃を避ける、姿勢制限を守るといった注意が継続的に必要。
長期視力管理
ロービジョンリハや補助具を活用しながらQOLを高め、自己チェックと眼科受診を怠らないことが大きなポイント。
視力が思うように回復しなくて焦りを感じたり、再発への不安を抱えたりするのは当然です。しかし、医師とよく相談しながら必要な処置や検診を受け、生活習慣にも気を配ることで、失明のリスクを大きく下げ、長く安心して過ごすことが期待できます。「やるべきことを淡々と続ける」——これが、網膜剥離術後の視力を守る最善のアプローチといえるでしょう。
参考:日本眼科学会 網膜剥離